2011年5月24日の記事の再掲です。

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参議院行政監視委員会で、孫正義氏のプレゼンテーションが行なわれた。他の参考人のように原子力の専門家でも地震の専門家でもない彼が国会で意見を述べるのは奇妙だが、その内容には去年の「光の道」と同じく論理的な穴がある。

去年、私は孫氏とUstreamで議論した。彼は「アクセス回線会社」をつくって銅線をすべて強制的に光ファイバーに取り替えれば通信料金が下がると主張した。

私は「その会社の株主は誰で、経営者は誰なのか。あなたの計算が間違っていたら、誰が赤字を補填するのか」と質問したが、彼はその質問に答えないまま延々と自説を展開した。その結果、総務省のタスクフォースでもソフトバンク案に賛成する委員は一人もいなかった。

再エネは原子力より高いのか安いのか

今回の彼のプレゼンテーションにも、大きな穴がある。それは彼のいう「自然エネルギー」のコストが火力や原子力より高いのか低いのかという問題だ。彼が固定価格買取制度(FIT)を20年続けろと主張する一方で「脱原発によって電気代が下がる」というのは矛盾している。

再生可能エネルギーのコストが火力や原子力より安いのなら、補助金は必要ない。かつてのインターネットのように、インフラを開放して自由に競争させれば安い再エネが勝つだろう。彼が補助金を要求しているのは、再エネの価格が火力や原子力より高いからである

sb1さすがに孫氏もこれは気になっているらしく、右のような図を示している。しかしこれは化石燃料の価格が以前より上がっていることを示しているだけで、それが再エネより高い証拠にはならない。

絶対水準で同じ図にプロットしたら、太陽光のコストは石炭の10倍以上だから、この記事のタイトルぐらいの位置になるだろう。河野太郎氏も認めたように、脱原発によってエネルギー価格が上がることは避けられないのだ。

再エネ業者の超過利潤は電力利用者が負担する

その差は何で埋めるのだろうか。あなたの払う電気代である。今年度から始まったFITの買い取り価格(42円/kWh)と電気代(15円)の逆鞘は電力会社の赤字になるので、これはFIT賦課金として利用者に転嫁することが認められている。

もし今の単価で100%再生可能エネルギーにしたら、平均8000円/月の電気代は2万円以上になるだろう。値上げを避けるために政府が補助すると、スペインのように財政赤字がふくらむだけだ。

「自然エネルギーにしたら電気代が安くなる」などというのは、ありもしない「絶対安全」を宣伝した電力会社と同じデマゴギーである。もし孫氏が、再エネが安いことを知った上で「40円以上が必要だ」という要求をしたのなら、それは政府をあざむく詐欺である。

安全性と経済性はトレードオフになっており、そのフロンティアのどこを選択するかが国民の選択なのだ。それをごまかして、論理的な穴のある政策をいくら派手に宣伝しても、去年の「光の道」と同じく政策担当者を説得することはできない。